教師

【教室掲示用】冬の詩

「冬がきた」 高村光太郎

「冬が来た」

高村光太郎

きつぱりと冬が来た

八つ手の白い花も消え

公孫樹いてふの木も箒ほうきになった

 

きりきりともみ込むような冬が来た

人にいやがられる冬

草木に背そむかれ、虫類に逃げられる冬が来た

 

冬よ

僕に来い、僕に来い

僕は冬の力、冬は僕の餌食ゑじきだ

 

しみ透れ、つきぬけ

火事を出せ、雪で埋めろ

刃物のやうな冬が来た

「十二月のうた」 茨木のり子

「十二月のうた」

茨木のり子

熊はもう眠りました

栗鼠もうつらうつら

土も樹木も

大きな休息に入りました

 

ふっと

思い出したように

声のない 子守唄

それは粉雪 ぼたん雪

 

師も走る

などと言って

人間だけが息つくひまなく

動きまわり

 

忙しさとひきかえに

大切なものを

ぽとぽとと

落としてゆきます

「冬と銀河ステーシヨン」 宮沢 賢治

「冬と銀河ステーシヨン」

宮沢 賢治

そらにはちりのやうに小鳥がとび

かげろふや青いギリシヤ文字はせはしく野はらの雪に燃えます

 

パツセン大街道のひのきからは凍つたしづくが燦々さんさんと降り

銀河ステーシヨンの遠方シグナルもけさはまつ赤かに澱んでゐます

 

川はどんどん氷ザエを流してゐるのにみんなは生なまゴムの長靴をはき

狐や犬の毛皮を着て陶器の露店をひやかしたり

ぶらさがつた章魚たこを品さだめしたりする

 

あのにぎやかな土沢の冬の市日いちびです

(はんの木とまばゆい雲のアルコホルあすこにやどりぎの黄金のゴールがさめざめとしてひかつてもいい)

あゝ Josef Pasternack の指揮するこの冬の銀河軽便鉄道は

幾重のあえかな氷をくぐり

(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)

にせものの金のメタルをぶらさげて茶いろの瞳をりんと張り

つめたく青らむ天椀の下うららかな雪の台地を急ぐもの

(窓のガラスの氷の羊歯はだんだん白い湯気にかはる)

パツセン大街道のひのきからしづくは燃えていちめんに降り

はねあがる青い枝や紅玉やトパースまたいろいろのスペクトルや

 

もうまるで市場のやうな盛んな取引です

「夢売り」 金子 みすゞ

「夢売り」

金子 みすゞ

年のはじめに夢売りは、

よい初夢を売りにくる。

 

たからの船に山のよう、

よい初夢を積んでくる。

 

そしてやさしい夢売りは、

夢の買えないうら町の、

さびしい子等らのところへも、

だまって夢をおいてゆく。

「積もった雪」 金子 みすゞ

積もった雪

金子 みすゞ

上の雪

さむかろな。

つめたい月がさしていて。

 

下の雪

重かろな。

何百人ものせていて。

 

中の雪

さみしかろな。

空も地面じべたもみえないで。

「冬の日」  西脇順三郎

冬の日

西脇順三郎

或る荒れはてた季節

果てしない心の地平を

さまよい歩いて

さんざしの生垣をめぐらす村へ

迷いこんだ

乞食が犬を煮る焚火から

紫の雲がたなびいている

夏の終りに薔薇の歌を歌つた

男が心の破滅を歎いている

実をとるひよどりは語らない

この村でラムプをつけて勉強するのだ

「ミルトンのように勉強するんだ」と

大学総長らしい天使がささやく

だが梨のような花が藪に咲く頃まで

猟人や釣人と将棋をさしてしまつた

すべてを失つた今宵こそ

ささげたい

生垣をめぐり蝶とれる人のため

迷って来る魚狗と人間のため

はてしない女のため

この冬の日のため

高楼のような柄の長いコップに

さんざしの実と涙を入れて

「除夜の鐘」 喜志詩

「除夜の鐘」

喜志詩

もう下は見えない

落ち続ける雪

 

百七回の鐘撞き

一年間の回顧

 

さあ百八回目鐘撞き

上を見ろ

号砲だ