生徒指導

未成年の自傷行為について、正しい知識、対応、保護者への報告

自傷行為について

中学生・高校生の約1割がに刃物で故意にみずからの身体を切った経験があることが明らかになっています。そのうち学校の先生が把握している自傷行為は1%にも満たないと予想されています。

近年、様々な未成年の問題がある中で、私たち大人は未成年の自傷行為についても正しい知識を持って対応していく必要があります。

自傷行為と自殺企図

自傷行為と自殺企図は異なる行動であります。

しかし、自傷行為を繰り返す若者の将来における自殺リスクは極めて高いことも報告されています。つまり、自傷行為では死なないかもしれませんが、自傷行為してる人は死なないとはいえないのです。

自傷行為の多くは、通常、激しい怒り不安緊張気分の落ち込みといったつらい感情を緩和するために行われています。つまり、自傷行為の多くは、自殺以外の目的でこれくらいであれば死なないだろうという予測のもとに、身体を傷つける行為です。

一方で、自殺企図は、こうすれば死ねるだろうという自殺目的で、身体を傷つける行為です。

自傷行為への思い込み

多くの人は、自傷行為と自殺企図が異なるものであることを直感的に理解していますが、それが故に自傷行為を軽視していないでしょうか?

繰り返されるリストカットなどの自傷行為を、誰かの気を惹くために行われる、人騒がせ的な行動と思い込んでいませんか?

自傷行為の多くは、一人きりの状況で行われ、誰にも打ち明けることなく行われています

つまり、誰かの気を惹くために行われているのではないのです。あえて孤独な状況で行い、自分自身で苦痛と向き合い解決しようとしている行動なのです。

自傷行為の問題点

自傷行為には、心の痛みを緩和する効果があるといわれています。

しかし、自傷行為を繰り返し行っていくなかで次第に手放せないものとなり、自傷行為なしでは生きることが難しくなってしまう危険性があります。アルコール依存症・ニコチン依存症等の様々な依存症に近いものがあると考えられています。

また、自傷行為は一時的に心の痛みを緩和するのかもしれませんが、自分自身の苦痛の問題解決にはなっていないため、長期的にみると問題が大きくなり、自傷行為もよりエスカレートして危険性を増していくという負のスパイラルに陥っていきます。

最終的には、負のスパイラルから抜け出せずに、一時的な心の痛みで行っていた自傷行為から、死んでしまいたいという考えに至ってしまいます。10代で自傷行為を経験した人は、そうでない人と比べて10年後自殺によって死亡するリスクが100倍以上高くなっています

自傷行為への対応

自傷行為のことを告白してくれた場合は、過度に心配したり、動揺したり、否定するのではなく、落ち着いて「正直に話してくれてありがとう」と受け入れましょう。

すぐに傷の手当てをしたくなるかもしれませんが、傷の手当てをされることを嫌う人は多いので、傷の手当ては求められるまでは待ってください。

自傷行為について否定はせず、共感することを心掛けて、ゆっくりと自傷行為の背景について探ってください

「絶対もう切らないと約束して」などと自傷行為をもう二度と行わないことを約束するのは絶対にやめてください

自傷行為はほとんどの場合、再び行われます。自傷行為を二度としないという約束は高い確率で破られることになります。

結果、約束を破ってしまったことで激しく自分を責めてしまい、余計に自傷行為に及んでしまったり、もう相談をしてこなくなったりします

約束はせずに、「切りたくなったらその気持ちを話しにおいで。」「切った後でもいいから話しにおいで。」と関係性をできるだけ継続できるようにしてください。

保護者への報告

「親には内緒にしてほしい」と言われたとき、応じてはいけません。自傷行為を把握した以上は必ず保護者に報告をしなければなりません。報告をしなければ、後で教えてもらえなかったとトラブルに発展することもあります。

その場合、なぜ保護者に内緒にしてほしいと考えているのかを理解することが重要です。保護者との関係がうまくいっていない保護者に伝わることで事態が悪化することを恐れているといった場合もあります。その場合は、保護者への報告にあたり配慮が必要となります。

ただ、自傷行為から死んでしまいたいと考えるようになることから、このまま放っておけないことや、苦痛や問題解決には保護者の力も必要なことをゆっくり丁寧に説明し、保護者にどのように説明しようと思っているのかを伝え、本人も同席の上で伝えることに納得してもらいましょう。

保護者には、

  • 自傷行為は、誰かの気を惹きたくて行うものでないこと。
  • 言葉にできない、辛くて苦しい状況の中でした行動であること。
  • このまま何の支援もなければ、自殺を考える可能性もあること。
  • 継続的な支援と家族の理解と協力が必要なこと

を伝えて、保護者の理解と協力を求めていくようにしましょう

また、次のような場合は精神科受診をすすめた方がいいです。

  • 自傷行為をやめたいのにやめられない。
  • 自傷行為をしても、心の痛みが緩和されない。
  • 死にたいという強い思いがある。
  • 人間関係が複雑すぎる。
  • 自傷行為の前後に、記憶が飛ぶ。
  • 摂食障害など他の精神障害が併発している。
  • 薬物(市販の感冒薬や鎮痛薬を含む)の乱用がある。
  • 性的虐待の被害を受けたことがある。
  • 複雑すぎる家族背景がある。

まとめ

自傷行為のサポートにおいて最も重要なことは、自傷行為をやめさせることではなく、自傷行為の背景にある、困難な問題を理解し、それを軽減してあげることです。

サポートを通じて、辛くて苦しいときには助けを求めてもいいことを知ってもらい、私たち大人が、未成年の自傷行為について正しい知識を持って対応していくことで、良い方向に進んでいくはずです。